2025/12/24 川上弘美著『センセイの鞄』 を読んで

静かな物語です。
けれど読み進めるほど、心の奥に静かに沈んでいくものがありました。
物語の核にあるのは、
派手な出来事ではなく、人と人が同じ時間を“ていねいに共有する”ということです。
会話の間合いや、沈黙の温度。
季節の移ろいを共に味わう穏やかな感覚。
それらがゆっくり積み重なって、関係が育っていく。
私はこの“ただ一緒にいる”という在り方に、
深い意味を感じました。
人はしばしば「劇的」「大きな成果」「大きな変化」へ意識を向けがちです。
けれど本当に居心地が良い瞬間は、
特別、や、大きなことよりも、
「静かにじーんとする時間」があるかどうかで決まると、最近よく思います。
この本を読んで、
人との「つながり」の本質は、
派手さでも熱量でもなく、
相手の存在をそのまま受けとめる“静かな関係性”にこそ宿るのだと改めて感じました。
そしてもう一つ。
物語全体に流れるゆったりとした時間の感覚が、
「急がなくてもいい」というメッセージにも思えました。
日々の仕事や生活の中で、
スピードに飲まれそうになることは誰にでもあります。
そんなときこそ、
一呼吸おき、今の時間を味わう余裕が
自分を整えてくれます。
『センセイの鞄』は、
その当たり前を、やわらかく思い出させてくれる本でした。




